【枝ものの心地よさ】四季を運ぶ枝ものは、家の中の『庭』になる

季節の枝ものを定期的にご自宅へお届けする「枝もの定期便」。お店ではなかなか買いづらい長尺の枝ものを気軽に楽しめるサービスです。

枝ものを飾ったときの「何だか癒される」「空気が変わった気がする」という言葉にできない心地よさの正体は何なのか?

造園や緑地環境の専門家である東京農業大学教授・水庭 千鶴子(みずにわ ちずこ)先生にお聞きしました!

ー先生の専門分野「ランドスケープ資源・植物分野」とは?

植物はもちろん、土や水、太陽光など植物を育てるために必要な環境を含めた空間づくりや、そこに暮らす生態系などについて広く扱う分野です。

私の研究テーマのひとつに「グリーンインフラ」があります。街づくりにグリーン、つまり緑地を活かして、資源をどう循環させていくかということに取り組んでいます。

ー人間にとって、植物や自然は必要なものでしょうか?

「バイオフィリック」という言葉があるんですが、これは「人間は本能的に自然を求めている」という意味なんです。

かつて私たちは、便利さを追求するあまり都市生活の中から自然を排除しようとしていました。だけど、やっぱり人間にとって自然は必要だよね、ということに気づきました。

 その考えから都市や生活空間の中に自然を取り入れたスペースをデザインすることを「バイオフィリック・デザイン」と言います。植物があることで空間が和らいだり、微量ですが光合成もしているので新しい風というか、空気を生み出してくれたりすることが、無意識の安心感に繋がっているのかなと思います。

人間も自然のものなので、朝目覚めて、昼活動して、夜は眠たくなるという1日の周期、さらには春夏秋冬という1年というサイクルに寄り添ってくれるのが植物なのかもしれません。

例えば桜が咲くと春の訪れを、紅葉を見て秋の深まりを感じる、というように植物の姿は季節を感じさせてくれますよね。つまり、植物は1年のリズムを整えてくれているわけです。

さらに、ある(アメリカの研究者の)データでは、壁のみの病室より、窓から植物が見える病室に入院している患者の方が快復率が早いというものがありました。

これらのことからも、やはり人間にとって自然や植物は必要なものなのではないでしょうか。

ー匂い同様、思い出とも繋がっていそうですね

そうですね。植物は春夏秋冬さまざまな種類があり、生きている時間を一緒に刻んでくれる…と言ったらすこしオーバーかもしれませんが、視覚的にも嗅覚的にも記憶と繋がっている存在かもしれません。

枝ものを飾ることで心が豊かになる理由として、一緒に時間を刻んでくれる存在が家にいてくれることや、自分以外の生き物がいることで相棒がいてくれるような感覚に人はホッとするのかなと思います。

ー家の中に置くグリーンの「適量」はありますか?

意外と人間って、視界を覆うほどのグリーンは求めていないんですよ。

ある実験で、さまざまな草丈の場所に子どもを連れて行くと、膝よりも高い草がある場所には行きたがらないというものがありました。本能的に「その先に何があるかわからない場所は危ない」という感覚があるかららしいんですが、大人もうっそうと茂った薮にはあまり入りたくないですよね。

自然は必ずしも人間の味方ではない、と私は思っているので、その恐れのような感覚は当たり前なのかなと思います。

そういった点からも、人間は緑が少なすぎても物足りないけど、多すぎても不安になってしまう…自分勝手なんですけど(笑)。

私が緑地を計画したり、管理したりするときも、木を植える際には向こうの空が見えるくらいを基準にしています。

つまり、自分がコントロールできると思える範囲内が適しているんだと思います。

ー先生が研究されたテーマ「植物による緊張緩和」に着目されたきっかけは?

これは個人的な体験なんですが、私すごく歯医者が苦手なんです。でも、当時通院していた病院には何故か通い続けられて、その理由を探してみました。

そこで処置室にグリーンが置いてあったことを思い出して、もしかしたら緑が緊張緩和に作用したのかもしれないと思ったことがきっかけです。

実験では緊張状態を示すRPP値(Rate Pressure Product)[*1]を用い、歯科診療室に植物や花があることで緊張緩和に効果があるかを調べました。

①植物や花がない場合、②植物のみがある場合、③植物と花がある場合でのRPP値を測定したところ、

①植物や花がない場合>②植物のみがある場合>③植物と花がある場合

となり、このことから、植物や花による緊張緩和の効果が示されました[*2]。

[*1]RPP値が高いほど緊張状態といえる

[*2]論文「緑化が被検者に与える緊張感の変化 -歯科医診療室を事例として-」 水庭千鶴子・阿藤舞・近藤三雄 東京農業大学農学集報 第53巻第2号 (2008)

ー緊張緩和以外にも植物が与えるいい影響はありますか?

現在、「筆記試験前後の能率向上」や「ストレス緩和」への植物の効果に関する実験に取り組んでいます。

また、植物が空気中の有害物質をどれくらい吸収するのかという検証も行っていて、切り花がシックハウス症候群の原因となるホルムアルデヒドに効果があることもわかりました。

ホルムアルデヒドは親水性(水に溶けやすい性質)のため、植物が吸収して栄養分として使われます。切り花10本前後で約6畳分の空気を浄化してくれる作用があります。

ホルムアルデヒドの性質を考えると、枝ものでも十分効果が得られそうなので、実験してみるのも面白そうですね。

これは個人的な意見ですが、植物があるだけで寂しさが薄れたり、イライラが収まったり、気持ちが穏やかになる気がしています。枝が伸びたり、花が咲いたりという視覚的な楽しさももたらしてくれます。

自宅でともに暮らす植物は、「お世話をしなくちゃ!」という負担感よりも、私たちを物言わず肯定し温かく見守ってくれる存在のように感じます。光合成して酸素を作り出すという意味でも、私たち人間は酸素がなければ生活できませんしね。

ーコロナ禍で自宅に植物を飾る人が増えてきたことをどう感じますか?

「家庭」という言葉がありますが、『家』と『庭』という2文字でできています。で、庭に何があるか考えると、やっぱり植物があって、そこで季節の移ろいを感じられる。

それこそ最初のバイオフィリックの話ではないですが、最近はアーティフィシャルなものよりナチュラルなものを好む傾向になってきています。例えばバラやチューリップでも、品種改良を重ねたものよりも原種に近いものを好む人が増えているんだそうですよ。

そういったナチュラル志向にも枝ものは合致していますし、何より庭のない家に飾ることで、そこに『庭』を作ることができるんだと思います。

 

広く深い知識と学術的な観点から、私たちが言語化できなかった枝ものの魅力にヒントの数々をくれた水庭先生。

なかでも「家庭」の話にはハッと気づかされるものがありました。「枝もの定期便」で、ご自宅のなかに『庭』を作ってみてくださいね

 

PROFILE | 水庭 千鶴子

東京農業大学地域環境科学部造園科学科教授。
「緑による環境改善および相互作用と応用手法の確立」「緑地・芝生地の保全と利用の確立」が研究テーマ。企業や官公庁が行う街づくりなどに参加。

 

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